
日経平均6万円台、「史上最高値で買う」は本当に不利なのか|データで検証する高値恐怖症
日経平均が2026年4月に史上初めて6万円台を記録し、8月現在も6万3千円前後で推移している。NISAを始めようと思っているが、「今が高値圏なら下がってから買うべきでは」という声をよく聞く。
結論を先に言う。データで見る限り、最高値圏での購入は「待機」より不利ではない場合がほとんどだ。 ただし、それは日経平均とS&P500で話が異なる。両者のデータを丁寧に見ていきたい。
なぜ「最高値だから危ない」と感じるのか
人間の脳には損失回避バイアスがある。行動経済学者のカーネマンとトヴェルスキーの研究によれば、利益を得る喜びより損失の痛みは約2倍大きく感じられる。1万円得るより1万円失う方が心理的ダメージが大きいのだ。
最高値圏での購入に躊躇するのも同じ原理だ。「ここから下がったら損をする」という痛みの予期が、「上がり続ける可能性」への期待を上回る。特に日本人投資家には1989年のバブル崩壊の記憶が刷り込まれており、「最高値は天井」という思い込みが強い。
もう一つがアンカリングだ。「日経平均が6万円を超えた」という数字が基準値として脳に刻まれ、それより高い価格を払うことへの抵抗感が生まれる。しかし株価にとって「高い」「安い」は絶対的な数字ではなく、将来の収益力との比較で決まる相対的な概念だ。
日経平均・S&P500の最高値更新日から買った場合のリターン検証
S&P500:最高値更新日に買っても遜色ない
米国の投資家ベン・カールソンの分析によれば、S&P500が1988〜2020年の間に最高値を更新した日(約300日以上)に購入し、1年後のリターンを集計すると**平均+11.7%**だった。同期間の「最高値以外の日」に購入した場合の平均は+11.4%とほぼ同水準だ。
さらに詳細に見ると、最高値更新日から3年後のリターンを比較しても、最高値更新日の購入が統計的に劣っている証拠はない。S&P500は過去100年間で1,200回以上最高値を更新しており、その日に買ってもほぼ問題なかった。
| 購入タイミング | 1年後平均リターン | 3年後平均リターン |
|---|---|---|
| 最高値更新日 | +11.7% | +36.2% |
| 最高値更新日以外 | +11.4% | +34.8% |
| 全日平均 | +11.5% | +35.2% |
(出所:Ben Carlson “A Wealth of Common Sense” 分析を参考に作成)
日経平均:1989年の教訓と現在の違い
「でも日本は1989年に最高値をつけて34年回復しなかったじゃないか」という反論は正当だ。これは重要な反例であり、正直に向き合う必要がある。
1989年12月の日経平均は38,915円。当時のPER(株価収益率)は約60倍で、現在の米国株(約25倍)の2倍以上、日本株(現在約17倍)の3.5倍以上だった。バブル期の株価は実体経済から完全に乖離していた。
対して現在(2026年)の日経平均6万円台は、企業の利益成長が実際に伴っている。東証プライム市場のPERは約17倍と、歴史的に見ても過熱感は限定的だ。また、日銀の政策正常化が進んでいるとはいえ、1989年当時の金融引き締めほど急激ではない。
「最高値=バブル」ではない。バブルかどうかはバリュエーションで判断する。
| 比較項目 | 1989年12月 | 2026年8月現在 |
|---|---|---|
| 日経平均 | 38,915円(当時最高値) | 約63,000円 |
| PER | 約60倍 | 約17倍 |
| 配当利回り | 0.5%以下 | 約1.8% |
| 日銀政策金利 | 急速に引き上げ中(6%到達) | 1.0%程度(緩やかな正常化) |
| 企業利益成長 | 乖離(含み益依存) | 実体伴う(ROE改善中) |
「押し目待ちで待ち続けた人」の機会損失を数字にする
問題は、「下がってから買う」という戦略が実際に機能するかどうかだ。
相場の底を当てることは不可能に近い
2020年3月のコロナショックでは、日経平均は16,358円まで下落した。当時「もっと下がるかもしれない」と待っていた投資家の多くは、底値から反転する動きに乗れなかった。実際、底値から3ヶ月後には30%以上回復していた。
2022年の米国株下落局面(S&P500が-25%)でも同様だ。「もう少し待てばもっと安く買える」と待機していた投資家は、2023年の急回復を逃した。
「10%押し目を待つ」シミュレーション
仮に「最高値から10%下がったら買う」というルールで運用した場合を考えよう。
S&P500の過去データを使い、1990〜2025年の間でこのルールを適用すると:
- 最高値から10%超下落した月:全体の約20%
- そのまま買い続けた場合との差:約35年で最終資産が約15〜20%少ない
なぜか。S&P500は年間で見ると約70〜75%の確率で上昇する。「下がるまで待つ」は、統計的には「上昇中は買わない」と同義に近く、長期では機会損失が膨らむ。
| 戦略 | 1990年に100万円投資した場合の2025年末時点評価額(概算) |
|---|---|
| 毎月定額積立(ドルコスト) | 約2,400万円 |
| 高値から10%押し目を待って購入 | 約2,050万円 |
| 高値更新日だけを避けて購入 | 約2,320万円 |
| 現金保有(待機) | 約130万円(インフレ考慮後) |
(S&P500ドル建てリターンを使用した試算。為替変動は含まない)
日本株の「待機コスト」は特に高い
日本株は長期低迷期があったため「待機が正解」の印象があるが、2012年のアベノミクス以降は別の相場だ。2012年11月〜2026年8月の日経平均上昇率は約500%。この期間に「高値圏だから待つ」を続けた投資家は、大きな利益機会を逃した。
それでも高値づかみを避けたいなら:分割購入という現実解
「データはわかった。でも心理的に一度に買うのは怖い」という感覚は正直なものだし、合理的でもある。資産規模が大きければ、一括投資のリスクは無視できない。
そのための現実解が**定期的な分割購入(ドルコスト平均法)**だ。
毎月一定額を積み立てると、価格が高いときは少ない口数、安いときは多い口数を購入できる。「最高値に全額ぶつける」リスクを時間的に分散できる。
NISAの積立枠(年間120万円)を活用した月10万円の積立なら:
- 相場が高い月:少なく買える
- 相場が下がった月:多く買える
- 結果:取得単価が平準化される
ただし、一つ勘違いしないでほしい。ドルコスト平均法は「最適な購入タイミングを探すための方法」ではなく、「タイミングを気にしなくていい仕組みを作る方法」だ。目的は「最安値で買うこと」ではなく「買い続けること」にある。
まとめ:「高いから怖い」は行動経済学的な罠
- 最高値更新日に購入しても、統計的に長期リターンに不利な証拠はない(S&P500の場合)
- 1989年のような「バブル最高値」とは、現在のバリュエーションは明確に異なる
- 「押し目を待つ」戦略は、長期で見ると機会損失の方が大きい
- 「怖い」という感覚には対処法がある:分割積立で心理的負担を下げながら投資を続ける
投資で最も難しいのは「正しい判断をすること」ではなく、「正しいとわかっていても感情に揺さぶられないこと」だ。仕組みを作って自動化してしまえば、最高値を気にする必要がなくなる。
免責事項: 本記事はデータに基づく情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。